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「核軍縮」とは名ばかり、ヒロシマ「核容認」ビジョンではないのか/岸田首相にどうしても聞きたかった質問

G7広島サミットを締めくくる岸田文雄首相の5月21日の議長国会見の終了間際、私は、会見の最前列の中央から岸田氏に「総理、事前に決まっていた社だけではなくて、質問させていただけないでしょうか」と呼びかけた。「『核軍縮ビジョン』について聞きたい」「(質問することが事前に)決まっていた社だけではおかしいと思う」「一問だけでいいので」と7度問いかけたが、岸田氏は困ったような表情で無視を続けた。背を向けて帰ろうとした岸田氏へ最後に、「総理、逃げるんですか」と問いかけた。すると、首相は演台に戻り、「核軍縮ビジョン」について自ら喧伝したい内容の説明を始めた。しかし、やはり、私の質問には耳を貸そうとはしなかった。私が聞きたかったのは、5月19日に発出されたG7首脳の「核軍縮ビジョン」の中核に、核保有国による核兵器容認の論理がそのまま展開されていることだった。核廃絶のシンボルである広島で、その対極にある核保有大国の論理をそのまま包含する声明を出したことで、岸田政権は大きな間違いを犯したのではないか。その問いに、首相からの答えはなかった。

Japanese PM Fumio Kishida at a press conference in Hiroshima(pool photo). Toshihiko Ogata of Arc Times raised hand in front of the PM
Japanese PM Fumio Kishida at a press conference in Hiroshima(pool photo). Toshihiko Ogata of Arc Times raised hand in front of the PM

 

尾形聡彦 Arc Times 編集長 / Toshihiko Ogata, Editor-in-Chief, Arc Times

Published at 01:15 on 2023/5/25 JST

 

最後に問いかけた。「総理、逃げるんですか」

「総理、事前に決まっていた社だけではなくて、質問させていただけないでしょうか」。岸田首相は、やや困惑した表情を浮かべながらも私の問いかけを無視した。「核軍縮ビジョンについて聞きたいんですけども」、「総理、お願いします」、「決まっていた社だけではおかしいと思うんですけど」、「4社(が事前に)、決まってて」、「核軍縮ビジョンについて聞かせてください、総理」、「一問だけでいいので」—-。私は連続して7度、呼びかけを続けた。しかし、岸田首相は、記者席に背を向け、演台から去り始めた。最後に私は問いかけた。「総理、逃げるんですか」

Kishida Fumio at a press conference in Hiroshima on May/21st/2023(Pool Photo)
Kishida Fumio at a press conference in Hiroshima on May/21st/2023(Pool Photo)

その瞬間、岸田氏が歩く動きを止めた。首相は振り返りながら、広報官に「一問ぐらい答えるよ」と言い、演台で、「核軍縮ビジョンについて答えろという質問でありました」と再び記者会見を再開した。この会見で初めて、メモなしで、以下のように自らの考えを述べ始めた。私は戻ってきた首相に、質問の趣旨を伝えようとしたが、岸田氏はそれには耳を貸さず、「核軍縮ビジョン」についての自らの考えを語った。

核軍縮ビジョンについて答えろという質問でありました。それをまさに、昨年8月、私は、日本の総理大臣として初めて、このNPT運用検討会議に出席し、総会で明らかにした、これが「ヒロシマ・アクション・プラン」であります。その際に、まずは、核兵器不使用の歴史、これは継続させなければならない。そして、これまで私たちの先人たちは、核兵器を減らすために様々な具体的な努力を行ってきました。CTBT(包括的核実験禁止条約)、FMCT(核兵器用核分裂性物質生産禁止条約)、こうした努力、これが今や忘れられたかのような現状にあります。CTBTについても是非議論を続けなければいけない、これは昨年の国連総会において、久方ぶりに、関係国が集まって、議論を行いました。FMCTについては、今年、国連総会で決議されてからちょうど30年の節目の年を迎えます。改めて、FMCTについても、思い返そうではないか、こういったことによって、核兵器の数を減らす、こうした努力を続けていく、こういったことも訴えましたし、そして、こうした努力の基盤となるのはまさに透明性であります。
核兵器国が現在どれだけの核兵器を持っているのか、これを明らかにすることこそが、核兵器国と非核兵器国の信頼の基盤になる、こうした透明性を追求する、こうしたこともアクション・プランの中に明記しました。そして、併せて、核の不拡散、平和利用について4点目を掲げると同時に、5点目は、まさに先ほど申し上げました、核兵器の実相、被爆の実相を多くの人々、特に世界のリーダーや、次の世代を担う若い人たちに実相に触れてもらうことが、将来に向けて、この核兵器のない世界という理想を目指す上において何よりも重要であるということで世界中の若い人たちに被爆地に足を運んでもらう、そのための基金を立ち上げて、こうした招待の取り組みを進めていこう、こうしたことも組み込みました。こうした「ヒロシマ・アクション・プラン」に盛り込んだ、様々な取組を現実に具体的に動かしていくことこそが、今の厳しい安全保障環境、厳しい現実を理想に結びつけていくために何よりも重要であるということを申し上げてきました。
プランについて答えろということでありますが、こうした私自身が明らかにした「ヒロシマ・アクション・プラン」、これを具体的に動かしていくことこそ重要であると、今回のG7広島サミットの中でも訴え、そして、G7の歴史上初めて独立文書としてまとめたその文書の中に「ヒロシマ・アクション・プラン」を高く評価し、その考え方に基づいて、G7で努力していこう、こういったことを確認したということであります。こうした考え方に基づいて、是非努力を続けていきたい、このように思っております。

「核軍縮ビジョン」とは、今回のG7広島サミットで19日に発出された「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」だ。広島サミットで、岸田首相が目玉にしている文書と言っていい。

核軍縮ビジョン(仮訳)
核軍縮ビジョン(仮訳)

核軍縮ビジョンの中核にあるのは、実は「核保有の論理」

文書では、冒頭こそ、「歴史的な転換期のなか、我々G7首脳は、1945年の原子爆弾投下の結果として広島および長崎の人々が経験したかつてない壊滅と極めて甚大な非人間的な苦難を長崎と共に想起させる広島に集った」と始まる。しかし、そのあとは、米英仏の核大国の論理が前面に出てくる。

特に、2022年1月に米国、ロシア、中国、英国、フランスの5大核保有国が出した、核についての共同声明の文書の根幹部分がそのまま盛り込まれている点は衝撃的だ。2022年のこの5大国共同声明は「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならないことを確認する」とした一方、「核兵器は、それが存在する限り、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、戦争を防止する」として、核兵器を明確に容認する内容で、核大国の論理がむき出しになっているのが特徴だ。2022年1月のこの5大核大国の文書で、核兵器の役割を示した部分の英語の原文は以下のようになっている。

nuclear weapons—for as long as they continue to exist—should serve defensive purposes, deter aggression, and prevent war.

そして、今回、岸田首相が成果を強調する19日の「核軍縮ビジョン」には、第2パラグラフにいきなり、ほぼ同じ文言で「核兵器は、それが存在する限り、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、戦争と威圧を防止する」と、核兵器の存在意義を明確に評価する内容が盛り込まれていた。「核軍縮ビジョン」の英語の原文の当該部分は以下の通りだ。

nuclear weapons, for as long as they exist, should serve defensive purposes, deter aggression and prevent war and coercion.

2022年の5大国共同声明の内容と比べると、「continue to」 が省かれているが意味はほぼ同じだ。また、「威圧(coercion)」という、中国などを念頭に置いた言葉が1語加えられただけで、ほぼ同一の表現だ。

つまり、「核軍縮に向けた」はずのビジョンの中核にあるのは、ロシアや中国を含めた核大国による「核保有の論理」なのだ。その点の説明を、私は岸田首相にどうしても聞く必要があると思っていた。核廃絶のシンボルである広島で、核大国による核保有の論理を岸田政権が容認する「ビジョン」を出したのは、核なき世界を願う被爆者やこれまでのヒロシマへの裏切りに等しく、大きな間違いだったのではないかと私は感じたからだ。

岸田首相(代表取材)
岸田首相(代表取材)

「広島で大きな間違いを犯したのではないか」

しかし、岸田首相は21日、私の問いかけに応じて記者会見を再開し、「核軍縮ビジョン」についての自らの考えは語ったものの、私の質問の意図や趣旨には耳を傾けようとはしなかった。

自分の言いたいことだけを言って、質問に答えずに去ろうとする岸田氏に私は再度問いかけた。「総理、その核軍縮ビジョンは核を認めるものなんですけど、その点お答えいただけないでしょうか」。岸田首相は背を向けて歩き続けた。

記者会見後、呼びかけに答えず歩き続ける岸田首相
記者会見後、呼びかけに答えず歩き続ける岸田首相

私は最後にこう呼びかけた。「広島で大きな間違いを犯したんじゃないでしょうか」。岸田氏は歩みを早め、戻ってくることはなかった。

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