Arc Timesコラムニストの星浩氏は17日の番組で、岸田政権が昨年12月に決めた「今後5年の防衛費43兆円」について、実は昨年6月ごろの「かなり早い段階で米国に通告していた」と明かした。財務省の鈴木俊一財務相は20日の会見で、Arc Timesの質問に対し、「私はそういう事実は全く承知していない」と語った。財務省の知らないところで官邸などから米国に通告が行われていた可能性については、鈴木氏は「わかりませんねえ。承知してませんし」と述べただけだった。
By 尾形聡彦 Ogata, Toshihiko / Arc Times 編集長
「43兆円、実はかなり早い段階でアメリカに通告」
TBSスペシャルコメンテーターで、Arc Times コラムニストを務める星浩氏は17日のArc Times の番組 The Newsで、「43兆円、実はかなり早い段階でアメリカに通告している」と明らかにした。星氏は「予算の大枠は、だいたい(毎年)6月の骨太の方針で決まってくるが、そのころにはだいたい(防衛費を5年で43兆円とする)方針が決まっていた。それをアメリカに伝えた」と説明した。
星氏は、防衛費を国内総生産(GDP)の2%にするという計算を政府内でしたところ、その額は5年で43兆円になることが昨年6月ごろの段階で政府内で判明していたとして、「GDP2%と43兆円というのは(当初から)セットになっていた」と語り、それを「アメリカに通告していた」と語った。
防衛費をめぐっては、岸田文雄首相が昨年11月22日に金融界やメディア関係者らでつくる「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議(座長・佐々江賢一郎元外務次官)」からの報告書を得たあと、岸田氏自らが12月5日に「防衛費は2023年度からの5年で43兆円」とするよう指示した経緯がある。それまでは「金額ありきではない」と繰り返していた岸田首相が、一転して「43兆円」と明言した経緯はきわめて不自然だった。
財務省と防衛省の折衝は「一種の芝居をやっていただけ」
日本の大手新聞などでは、「財務省は30兆円台半ばを主張したのに対し、防衛省側は40兆円台後半を要求した」といった報道が多く出て、その中間点で両者が折り合ったとの見方がこれまでは大勢だった。
星氏は「最初から43兆円というのが落とし所で、一種の芝居をやっていただけ。43兆円ぐらい、という話は(当初から)アメリカに通告されていた」「財務省がよくやる、(最初は)ちょっと少なめに見せておいて、『いやあ、やられたあ』なんて言いながら(当初よりも多い額に財務省として譲歩したように見せかけ)、実はシナリオ通りだったという典型的なパターン」と解説した。
星氏は、元朝日新聞特別編集委員で、現役や歴代の首相や自民党幹部、官邸中枢や各省幹部への深い取材で知られている。岸田首相や菅前首相との親交も深いとされる。星氏は、岸田政権における官邸と米国との連絡ルートについて、「エマニュエル駐日米国大使と、木原誠二官房副長官が週に1回は会っている。木原氏は、エマニュエル大使の話をメモにして、外務省や(岸田)総理に上げている」とも明かした。
財務省関係者は、Arc Timesの取材に対し、「43兆円の昨年6月段階での米国への通告」という星氏の話について、「当時、そんな話は財務省には伝わっていなかった」と説明。昨年末の防衛省との折衝の際にも、「(主計局の)現場は知らなかった」と話した。一方で、この関係者は「財務省の知らないところで、官邸や国家安全保障局、防衛省関係者らから米国側にそうした話が伝えられていた可能性はあるのかもしれない」とも語った。
鈴木財務相「そういう事実は全く承知していない」「分かりませんねえ」
予算編成は国家の主権の根幹部分を成すもので、それが日本政府内で議論される前の段階で、米国側に通告されていたという星氏の話は、衝撃的な内容だ。しかも、今回の「5年で43兆円」という額は、防衛費を従来のほぼ倍にし、戦後の日本の安全保障政策を大きく転換するものだ。日本の安保政策の大転換を、岸田政権内での議論の前に首相官邸の一部だけで決め、予算額も合わせて米国に通告していたということがあれば、国会や国民への背信行為ともいうべき重大な事態といえる。
鈴木俊一財務相は20日の閣議後会見で、防衛費43兆円が昨年6月ごろの段階で米国に通告されていたのかどうかを問うArc Timesの質問に対し、「私はそういう事実は全く承知してません」と答えた。財務省が関知しないところで、官邸などから米国に通告がなされていた可能性については、鈴木氏は「まあ、わかりませんねえ。承知してませんし」と述べただけだった。
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