襲撃事件で重傷を負った社会学者の宮台真司さんは、12月13日放送の「Arc Times 」The Newsにリモート出演し、今の心境や事件について語りました。
By Arc Times 編集部
救急車が50分間来なくて、ウクライナの兵隊さんのことを考えた
「切られた後、救急車も50分間来なくて苦しかったが、そのときにいろんなことを考えた。(もっと痛い目に遭っているはずの)ロシアやウクライナの兵隊さんを思え、と自分に言い聞かせた。また、母や親族から聞いた戦争体験、焼夷弾に体を焼かれながら逃げた話を昔聞いていて良かったと思った。『こんなもんが、なんじゃい!』と、子供っぽいかもしれないけど、思うことができた。その意味で、戦争の語り伝えは、反戦・非戦に向けた構えをつくる上でも重要だけど、本当に自分が悲惨なのか、と相対化する視座も与えてくれる。自分の自己防衛のカラに閉ざされることなく、開かれるためにも、歴史を学ぶことや、報道を通じて、困難な境遇にいる人たちのことを絶えず想像することを通して、自分を相対化することも含め、物事の優先順位をはっきりつけていくことが重要だ」
暴力にビビって発言を変えるわけにはいかない
「僕が暴力にビビって、発言の色やトーンを変えるようなことがあれば、『なんだ、しょせん言論界といっても、こんな浅ましくてさもしいヘタレがポジション取りするだけだろ』というふうに思われる、リコンファメーションされてしまう。それは僕は嫌だなと思う。」
「そういうヘタレじゃない言論人、そうじゃない人たちがつくる言論の界隈だってありうるんだぜってことを示したい、というか、そのことに希望を持っていただきたい、という強い意志が自分にはある」
「犯人像についてはいっさい予断を持っていない。僕が気にするのはあくまで、ファンクション、機能。僕がここでトーンを変えると、『あ、結局言論人って、やばくなったら言うこと変わっちゃうわけね』という、日本ではよくありがちな・・・。その感覚がまたここで再確認されてしまうのは困る。僕はそこにだけ集中している。」
早く退院できるよう努力した
「かなりの大手術だった。入院1日目と2日目と合わせて6時間、何百針縫ったか数え切れない。傷の具体的な話はしゃべってはいけないと警視庁に言われている。裁判の問題があるから。でもみなさんの想像を絶するような傷です。『全治1ヶ月半から2ヶ月の重傷だけれども、命に別状はない』、これ報道の決まり文句だけど、『え?こんな状況が〝命に別状はない〟なのか』と思った。それはもう熱は出るし、痛みもすごいし・・・しかし、そんなふうに思っている場合じゃないと。できるだけ早く復帰することで、言論界へのダメージが少なくなるだろうと思った」
「人間は寝ていると力が減衰してしまう。なので、病院の方には申し訳ないが、21時の消灯時間になるとおもむろに灯りをつけ、起き上がり、禁止されていた松葉杖も入手して、痛いけれども体を動かした。それは『回復を早めたい』という明確な目的があったからだ。なぜかというと、回復を早めることで、さっき申し上げた僕の意図(を実現したかった)」
〝テロで言論の界隈は変えられないよ〟と示す
(青木理さん)「こういう事件の被害者になったことにより、宮台さんが新たな宿命というか立場を負ったのではないかという気がする。これまでにプラスして、新たな宿題を負ったというのはあるのでは?」
「あります。日本はなんだかんだ言って平和なので、テロがあればテロを批判する。批判してかまわないし、批判すべきだと思うけど、テロを批判することでテロはなくなるのか? なくなるわけない。そこではやはりファンクション、機能に注目する必要があって、大事なのはテロを批判することではなくて、テロのゆえにヘタれない、テロに屈することがない、というのがやはり重要。言い換えると『テロは無駄だ』と思わせること。もし日本が覚悟ある言論人だらけであれば、いわゆる怯えさせるという意味でのテロは無駄だと、こいつを抹殺するということだけが有効である、というふうにたぶんなる。戦前はそういう予想があった。重要なのは有効性。テロに屈することがない言論界の有様を示すことが最も重要なテロ対策。これはテロを防ぐこととは違うが、〝テロをしたところで言論の界隈は換えられないよ〟と示すことが重要。
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