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東京地裁、著名訴訟記録の廃棄を継続/最高裁の「保存、しっかり改めた」との説明に大きく反する実態

東京地裁が、著名訴訟の記録の廃棄を2020年2月の新ルール後も、継続していたことがわかった。昨年10月に最高裁は全国の裁判所に廃棄の見合わせを指示したが、それがなければ東京地裁は2025年まで廃棄を継続する方針だった。東京地裁は、外部の有識者の意見を踏まえてみずからが決めた保存運用のルールを勝手な解釈で踏みにじり、最高裁による国会への説明や自身のウェブサイトの記載にも反するルール違反の廃棄を繰り返していた。

記者会見する元オリンパス社員の浜田正晴さん(左)と中村雅人弁護士=2月8日午後4時47分、東京・霞が関で
記者会見する元オリンパス社員の浜田正晴さん(左)と中村雅人弁護士=2月8日午後4時47分、東京・霞が関で

東京地裁、保存運用ルールを独自の解釈で踏みにじる

複数の全国紙で取り上げられるなど著名な訴訟の事件記録の保存について、最高裁が全国の裁判所に2019~20年に改善を求め、国会で「近年、運用をしっかり改めた」と説明している一方で、実際には東京地裁が、そうした記録の廃棄をその後も継続していたことがわかった。昨年10月に最高裁は全国の裁判所に廃棄の見合わせを指示したが、それがなければ東京地裁は2025年まで廃棄を継続する方針だった。精密機器メーカーのオリンパスの内部通報をめぐる訴訟の記録が東京地裁によって昨年2月に捨てられた問題の原因として、10日午後になって、同地裁の幹部がこうした廃棄継続の事実を記者に明らかにした。2020年2月以前に終結した訴訟の記録については、全紙で報道された重要訴訟であっても選り分けることなく廃棄を継続してきたといい、そうした実情について同地裁幹部は、ルールに違反するところはない、と強弁している。東京地裁は、外部の有識者の意見を踏まえてみずからが決めた保存運用のルールを牽強付会な独自の解釈で踏みにじり、最高裁による国会への説明や自身のウェブサイトの記載にも反するルール違反の廃棄を繰り返していた格好だ。

By 奥山俊宏 Okuyama, Toshihiro / Arc Times 寄稿ライター、上智大学教授

オリンパスの内部通報制度「コンプライアンスヘルプライン」をめぐって、同社の社員だった浜田正晴さん(62)はオリンパスと訴訟で8年にわたって争っていたが、2016年2月、双方の和解で訴訟は終結した。内部通報者に対する制裁的人事の違法性が裁判所によって認められたのにその被害を回復するのが非常に難しい実情が明らかになり、この訴訟は、改正公益通報者保護法が2020年に制定される際にその議論に大きな影響を与えた。ところが、その訴訟記録が2022年2月に東京地裁によってひそかに廃棄されていたことが最近になって判明した。

東京地裁が2020年2月18日に定めた事件記録特別保存の運用要領
東京地裁が2020年2月18日に定めた事件記録特別保存の運用要領

「民事事件に関する記録及び事件書類の特別保存の要望」と題する東京地裁のウェブサイトのページには、「全国的に社会の耳目を集めた事件」や「調査研究の重要な参考資料になる事件」について、その記録を特別保存(事実上の永久保存)に付すべきだと例示されており、さらに、次の「ア」「イ」「ウ」の事件については、類型的に特別保存に付すと明記されている。

ア 「最高裁判所民事判例集」又は「最高裁判所裁判集(民事)」に判決等が掲載された事件
イ 当該事件を担当した部から「重要な憲法判断が示された」、「法令の解釈運用上特に参考になる判断が示された」、「訴訟運営上特に参考となる審理方法により処理された」に該当するとして申出があった事件
ウ 主要日刊紙のうち2紙以上(地域面を除く。)に終局に関する記事が掲載された事件

訴訟記録を廃棄された浜田さん、「無念です」

浜田さんの訴訟の和解は即日、朝日から産経まで主要全紙で報道されており、「ウ」に当てはまる。しかし、浜田さんが今年1月27日に問い合わせたところ、東京地裁は、「昨年2月に記録を廃棄した」と回答した。浜田さんは、地裁のウェブサイトの記載に反する廃棄だとして、廃棄理由を尋ねたところ、同地裁は2月6日、「後日確実に説明するので待ってほしい」と返答してきた。浜田さんと訴訟代理人弁護士だった中村雅人弁護士(元内閣府消費者委員会委員長代理)は10日午前、記録の復元を要請する書面を同地裁と最高裁に提出した。浜田さんは書面の中で、「当然保存されているものと思っていました」「残念であるとともに、怒りを覚えます」「裁判所の規程に反して廃棄されたことを知り、何とも言えず無念です」と述べ、「事件の代理人らの協力を得てでも、是非私の事件の記録を復元し、特別保存としてください」と申し入れた。

東京地裁が入る合同庁舎=東京都千代田区霞が関1丁目
東京地裁が入る合同庁舎=東京都千代田区霞が関1丁目

一方、東京地裁の当局者は10日午後になって、「『ウ』の『事件』については、遡って終局のときの全部の日刊紙の報道状況を調べるのは現実味がないだろうという認識にたった上で、過去に終局したものは含まれない、と解釈している。令和2年(2020年)2月18日より後に終結した事件(だけが対象だ)と考えている」と筆者(奥山)に説明し、浜田さんにも別の担当官から同趣旨の説明をした。説明によれば、「ア」「イ」「ウ」の基準を示した運営要領を定めたのは2020年2月18日で、このうち「ア」と「イ」については、それより前に終結した事件にも適用し、「ウ」については、それより後の事件のみに適用しているという。その結果、浜田さんとオリンパスの訴訟の記録は特別保存の対象外として扱われた。

ルールごとの対象期間を、明文化された根拠なく恣意的に区別

東京地裁の幹部によれば、こうした区分に明文化された根拠はない。東京地裁の運用要領に、「ア」「イ」の適用対象時期と「ウ」の適用対象時期の違いは記されていない。東京地裁のウェブサイトでも、「ウ」について2020年2月18日以降に終結した事件のみに適用するとの記載は見当たらず、そもそも「ア」「イ」「ウ」の区分がいつ設けられたのかも記載されていない。東京地裁のウェブサイトで「ア」「イ」「ウ」は同列に表記されており、このうち「ア」と「イ」の二つと、「ウ」で適用対象時期が異なることを読み取ることは不可能だ。にもかかわらず、東京地裁は、ひそかに2020年2月18日で区切って、それより前に終結した事件の記録を捨て続けていた。

そもそも1992年に最高裁は全国の裁判所に「全国的に社会の耳目を集めた事件」や「調査研究の重要な参考資料になる事件」の記録の特別保存を求めたが、東京地裁はこの指示に従わず、重要訴訟記録の廃棄を繰り返していた。この事実が朝日新聞の報道で明るみに出され、このため最高裁は2019年11月、「重要な民事裁判の事件記録が確実に保存されるようにするため」として、全国の裁判所にすべての記録の廃棄の見合わせを指示。東京地裁はプロジェクトチームを設けて検討し、筆者(奥山)ら外部の有識者から意見を聴いた上で、「ア」「イ」「ウ」などの基準を明確化した運用要領を2020年2月18日に定め、その後、見合わせを解除して一般事件の記録の廃棄を再開した。

東京地裁は2025年まで著名訴訟の記録を捨て続けるつもりだった

2020年2月18日以降に終局に至った事件の記録は現時点で通常の保存期間の5年を経過しておらず、このため、東京地裁当局者の10日の説明によれば、これまで「ア」「イ」に該当する事件の記録や外部から要望があった事件の記録を特別保存に付した例はあるものの、そのほかに、「ウ」を適用して特別保存に付した例はないという。つまり、東京地裁は今後も2025年2月まで、最高裁の判例集や裁判集に掲載された事件を除けば、実質的には自らの判断だけで、著名訴訟の記録を自由に捨て続け、今回のオリンパス内部通報訴訟の記録廃棄と同様の事例を出し続けるつもりだったことになる。実際には昨年10月、連続児童殺傷事件で逮捕された当時14歳の少年の記録が神戸家裁で廃棄されていたことが発覚したことを受けて、最高裁から全国の裁判所に記録廃棄の見合わせの指示が再び出され、現在は、東京地裁でも廃棄をストップしている。

東京地裁の幹部によると、2020年2月18日以降は毎日、「主要日刊紙のうち2紙以上に終局に関する記事が掲載された事件」を新聞で調べているという。一方、それ以前については、年に3万件もの訴訟があり、チェックするのは不可能だと考えていたという。実際には、3万件の訴訟を一つひとつ調べなくても、新聞各社の記事データベースを「東京地裁」「判決」「和解」などのキーワードで検索すれば、容易に過去にさかのぼって「ウ」の対象を把握することができる。データベースは有料だが、東京地裁の最寄りの千代田区立図書館や国立国会図書館に足を運べば無料で検索できる。これについて東京地裁の幹部は、運用要領策定より前に終局に至った事件の記録の廃棄については、最高裁によって昨年秋に設けられた有識者委員会でその当否が検討されるのではないか、との見通しを示した。

最高裁判所=東京都千代田区隼町
最高裁判所=東京都千代田区隼町

最高裁による「運用改めた」との説明とは異なる、東京地裁の実態

重要な事件の記録の保存について、最高裁事務総局の小野寺真也・総務局長は昨年4月20日の衆院法務委員会で、「以前、著名な事件についての保存がされていないのではないかという御指摘をいただいたこともありまして、それ以降、令和2年(2020年)くらいから、各地できちんとそれを、運用を改めるというようなことが行われました」と答弁している。その上で、小野寺総務局長は、東京地裁が2020年に定めた運用要領の内容について「地域面を除く主要日刊紙のうち2紙以上に終局に関する記事が掲載された事件を保存に付するというような客観的な基準を設けた」などと説明し、「近年、運用をしっかり改めたというところでございますので、これをしっかりと運用を続けていきたいというふうに思っております」と答弁した。ところが、実際には、東京地裁は運用を一部しか改めず、客観的基準を独自の解釈で無視し、重要事件の記録の廃棄を継続していた。

東京地裁の見解について浜田さんは「詭弁だ。納得できない。東京地裁は最高裁のそもそもの指示の通りに行動しなければならないと思う」と話している。

Posted: 06:45am JST on Feb/14/2023

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